分子標的治療薬とは従来の抗がん剤と異なり，がん細胞の特異分子を認識し，がん細胞のみに選択的にはたらく，抗がん剤として開発されました。
この分子標的治療薬にはがん細胞の表面にある特異抗原に作用するタイプのものと細胞内，核内の分子を標的として細胞内に入り込んで作用するものとがあります。
従来の抗がん剤は，がん細胞が細胞分裂を行う時に作用し，がん細胞を破壊するはたらきがあります。
しかし，この細胞分裂は正常細胞でも行われ，しかも抗がん剤は血液に乗って全身を巡るため，正常細胞にも大きなダメージを与えてしまいます。
その結果，おう吐，下痢，食欲不振，脱毛，骨髄抑制による免疫力低下など深刻な副作用に患者は苦しみ，体力的にも大きなダメージを受けます。
ところが，分子標的治療薬はがん細胞が持っているある特定の分子をターゲットにするので，正常細胞まで一緒に攻撃してしまうこともなく，副作用も少ないといわれ，夢の新薬として期待されました。
しかし，実際に使用してみると，従来のものより大きな効果が見られる場合もありましたが，予想外の重篤な副作用も現れたのです。
さらに，肺がん治療に使用されたイレッサなど，効果の個人差が大きいことも予想外でした。
しかし，肺がんはがん細胞表面にあるEGFRと呼ばれるレセプターの遺伝子変異がある患者の場合，この分子標的治療薬の効果が大きいということも解明されています。
また，ハーセプチンは乳がん細胞に発現するHER2というタンパクを標的とした分子標的薬ですが，あらかじめHER2過剰発現の有無を検査で確かめることで，効果がある推定される患者さんに絞って投薬できるようになったのです。
このように，あらかじめ，がん細胞の分子を調べることでより効果的に使えるようにもなりました。
さらに，これまでの分子標的薬もがん細胞の遺伝子変異により効果がなくなることもありましたが，その変異した細胞をターゲットにした，第２世代の分子標的治療薬も開発されています。
分子標的治療薬は今後も進歩し，完全治癒を目指し，新しいものが開発されていくと考えられますが，現在の技術レベルでは，従来のものと同様に副作用もあり，完全に治癒することは，難しいといえるでしょう。
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