国内で承認された分子標的治療薬
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トラスツズマブ(ハーセプチン) 2001年承認
トラスツズマブは乳がんの分子標的治療薬として,日本で最初に認可された抗がん剤です。
トラスツズマブはがん細胞の表面に存在するHER2受容体に結びつく抗体で,転移性の乳がんの中でも,HER2強陽性と判定された患者のみに効果があらわれています。
この作用のメカニズムはリツキシマブと同様に,HER2受容体に結びついたトラスツズマブがNK細胞やマクロファージの標識となって結合し,それらの免疫系細胞のはたらきにより,腫瘍細胞を攻撃するというものです。
他の抗がん剤との併用で奏効率や生存期間の延長が得られ,乳がんの新しい治療薬として期待されています。
副作用としては最も現れやすいものが発熱と悪寒で,その他頭痛,倦怠感なども出る場合もあります。また,頻度は少ないものの重篤な副作用として心臓機能の低下や呼吸器の障害が出ることがあります。 |
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リツキシマブ(リツキサン) 2001年承認
悪性リンパ腫の治療に使われ,リンパ腫のCD20抗原にはたらくモノクローナル抗体で,単独で30%以上の奏効率を示しています。
この作用のメカニズムはCD20抗原に結びついたリツキシマブがNK細胞やマクロファージの標識となって結合し,それらの免疫系細胞のはたらきにより,腫瘍細胞を攻撃するというものです。
海外の報告ではリツキサンと抗がん剤治療を併用した患者群は,リツキサンを併用しない患者群に比較して,長期生存する人が10パーセント増加しています。
悪性リンパ腫における長期生存とは病気が治癒したものと同義と見なされ,その値が10パーセント改善したのはとても画期的なことといわれています。
従来型の治療薬よりは副作用は少ないのですが,副作用は見られ,主なものに発熱,悪寒,虚脱感,かゆみ,頭痛,ほてり,血圧上昇,頻脈,多汗,発疹などがあります。
また,白血球の減少,好中球の減少,血小板の減少などの他,重篤な症状として,アナフィラキシー様症状,肺障害,心障害などの副作用があります。 |
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イマチニブ(グリベック)2001年承認
慢性骨髄性白血病(CML)や消化管間質腫瘍(GIST)の治療薬です。異常細胞を産生させるBCR-ABLチロシンキナーゼという酵素を選択的に阻害するはたらきがあります。
イマチニブを服用した慢性骨髄性白血病患者の5年生存率は95パーセントと,大変高い奏効率を示しており,現在では,イマチニブが慢性骨髄性白血病の第1選択の治療法になっています。
消化管間質腫瘍(GIST)は,食道や胃,小腸,大腸などの消化管粘膜の下層に発生する腫瘍ですが,この腫瘍に対しては50%の患者に有効です。
この抗がん剤は経口薬で,通院で治療できることも患者に大きなメリットですが,副作用として,顔や脚のむくみ,皮膚の発疹,骨髄抑制,吐き気,血小板減少症などが認められています。
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ゲフィチニブ(イレッサ) 2002年承認
小細胞肺がんの治療に使われ,がんの増殖に関係するチロシンキナーゼという酵素を阻害する薬剤です。
20%の患者の腫瘍が縮小し,腫瘍の成長の停止まで含めると60%の患者に効果があったという報告がありますが,一部に急性肺障害や間質性肺炎などの副作用が報告されています。
この副作用は特に放射線治療を受けた患者に多いというデータがあります。放射線で傷ついた細胞が修復される時に発現するレセプターが細胞の増殖に関するもので,これはがん細胞が発現しているレセプターと同じものです。
したがって増殖しようとする正常細胞までがこの治療薬の影響を受けてしまうことが副作用の原因であるとも考えられています。
ゲフィチニブは従来型の抗がん剤と比較して吐き気,脱毛などの副作用は少ないというメリットがあり,患者によっては劇的に効く場合もあります。
よく見られる副作用として発疹,かゆみ,下痢などが見られますが,投与する患者100人につき1~2人の割合で,間質性肺炎などの重い副作用が起きているので注意が必要です。
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ボルテゾミブ(ベルケイド) 2006年承認
ボルテゾミブ(ベルケイド)は再発や難治性の多発性骨髄腫の治療薬です。
この抗がん剤は細胞中の不要なたんぱく質を分解する酵素プロテアソームの働きを阻害し,骨髄腫細胞の増殖を抑制する機能を持っています。
これまで多発性骨髄腫に対し,メルファランとプレドニゾロンの組み合わせやシクロホスファミド,ビンクリスチンなどによる多剤併用療法が行われてきましたが,長期間の使用では効果も上がらなくなります。
そのような理由からボルテゾミブ(ベルケイド)に対する期待も高まりました。
副作用としては,下痢や食欲不振などの消化管症状や,手足がしびれるなどの末梢神経障害などがあります。また,日本では間質性肺炎が多く,使用量が多いと,血小板が減少して出血しやすくなります。
骨髄の正常な細胞にも作用するため,白血球や赤血球などの血液細胞が減少する「骨髄抑制」が高い頻度で起こります。 |
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ベバシズマブ(アバスチン) 2007年承認
アバスチンは転移性大腸がん,切除不能進行・再発非小細胞肺がんの治療薬です。
ベバシズマブは,がん細胞が自分の細胞に向かって新たに血管をつくるはたらき(血管新生)を阻害し,がん組織への栄養・酸素の供給を遮断し,腫瘍の拡大,転移を阻害するというものです。
ベバシズマブは血管を増殖させる信号を血管に与える,がん細胞の糖タンパクであるヒトVEGF(血管内皮増殖因子)に特異的に結合し,これが血管内皮細胞上に発現しているVEGF受容体と結合することを阻止することで,がん細胞に向かう血管の新生を抑制し,すでに新生された未熟な血管をも退縮させます。
アバスチン単独ではがん縮小効果は弱いものの,抗がん剤と併用することでよい治療成績が得られ,海外の臨床試験では,アバスチンを長期間使用したほうが生存期間が延長すると報告されています。
アバスチンに特有な副作用として,出血,血栓症,消化管穿孔,血圧上昇などあります。全国調査(07年6月~12月)では,血栓症は0.9パーセント,消化管穿孔は0.4パーセントと低い数値でした。 |
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エルロチニブ(タルセバ) 2007年承認
非小細胞肺がんの治療薬で作用メカニズムはイレッサと同様で,がんの増殖に関わるがん細胞の表面にあるEGFR(上皮増殖因子受容体)チロシンキナーゼを標的とし,そのはたらきを阻害します。
化学療法無効患者や化学療法後のがん悪化患者を対象にした臨床試験では,偽薬投与群の延命が平均4・7カ月だったのに対しタルセバ投与群は平均6・7か月延命したと報告され,効果はイレッサ以上ともいわれています。
EGFRに特定の遺伝子変異がある場合,タルセバはより高い治療効果が期待できることがわかっています。 したがって遺伝子検査の結果が,タルセバの効果を判定するデータとなります。
しかし,遺伝子変異がない患者でも,一般的な化学療法と遜色がない程度には延命効果があることが明らかになっています。
副作用として,EGFRチロシンキナーゼ阻害薬で特徴的に現れるものに皮疹などの皮膚障害があります。イレッサでも発現しますが,発現率はタルセバのほうが高く,ほとんどの患者に見られます。
また,イレッサ同様,間質性肺疾患も見られ,その副作用の発症率は国内の臨床試験では4.9%でした。 その他,下痢,口内炎などの副作用も見られます。
また,タルセバは膵臓がんに対する臨床試験の結果,効果が得られたとして,中外製薬が2009年膵臓がんに対する効能・効果追加の承認申請を厚生労働省に行いました。 |
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イブリツモマブ(ゼヴァリン) 2008年承認
イブリツモマブ(ゼヴァリン)はがん細胞にCD20抗原が発現しているB細胞性非ホジキンリンパ腫の治療薬です。
ゼヴァリンはリツキサンと同じようにB細胞表面上のCD20抗原をを標的としていますが,ゼヴァリンはこの抗体に放射性同位元素を結合させているという点に特徴があります。
ゼヴァリンはマウスの抗体を利用し,イットリウム90という放射性同位元素を結合させています。この抗体がCD20抗原を標的にしてがん細胞に取り付くと,放射性同位元素から出る放射線が,がん細胞を攻撃します。
ゼヴァリンの優れている点は放射性同位元素が放出するベーター線が,CD20陽性リンパ腫細胞に加え,その周囲のCD20抗原を持たないリンパ腫細胞まで攻撃することができるということです。
ゼヴァリンはリツキサンが効かない場合などに,使用されますが,リンパ腫細胞が骨髄に浸潤をきたしているときなどは,造血幹細胞にダメージを与え,骨髄抑制という副作用起きるため,
使用が難しくなります。
臨床試験ではリツキサンに対して抵抗性のある濾胞性リンパ腫54人にゼヴァリンを投与した場合の奏効率は74パーセントでした。
また,主な副作用は,投与後6~7週間後に出現する骨髄抑制があり,その他の副作用として,倦怠感,頭痛,便秘,口内炎,発熱,悪心,下痢,食欲不振などが臨床試験で報告されています。 |
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ソラフェニブ(ネクサバール) 2008年承認
切除不能または転移性腎細胞がん,または切除不能の肝細胞がんの治療薬です。
腎臓がんに対する初めて認可された抗がん剤で,細胞の増殖やがんに栄養を運ぶ血管新生に関わる複数のキナーゼを標的としています。
がん細胞の増殖や血管新生にはキナーゼというある種の酵素が関係しています。この治療薬は複数のキナーゼを阻害することで,がん増殖や血管新生をうながすシグナル伝達をさまたげます。その結果,がんの成長が抑制されます。
副作用として腎臓がんを対象としたスニチニブ(スーテント)と同様に,手足が腫れたり皮膚が乾燥してはがれたりする「手足症候群」が,約半数程度の患者に現れています。これは痛みをともなうこともあります。
次に多いのが,下痢や吐き気など消化器症状,そして高血圧です。 また,AST(GOT)やALT(GPT)の上昇を伴う肝機能障害や黄疸が現れることがある他,脱毛なども見られます。
また,新生血管を阻害するため,妊婦および妊娠している可能性のある女性には使用できません。高脂肪の食品はこの薬の血中濃度を低下させるので食事と薬の服用の時間を開けることが必要です。 |
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スニチニブ(スーテント) 2008年承認
イマチニブ抵抗性の消化管間質腫瘍,切除不能または転移性の腎細胞がんの治療薬です。
腫瘍増殖や血管新生にかかわる複数のキナーゼ群を標的分子とし,がん細胞や血管内皮細胞の表面にある複数の受容体に働きかけ,がん細胞の増殖因子や血管新生をの信号伝達をブロックすることでがんの増殖を抑制します。
これまで使われてきた同類薬のイマチニブ(グリベック)がよく効かない場合や副作用で使えないときに用いられます。
これまで国内の臨床試験で確認された主な副作用としては,血小板減少や手足症候群,食欲不振,肝機能異常,疲労感,リンパ球減少などです。
これらの副作用の安全対策のため,使用出来る施設はがん化学療法に精通し,副作用への緊急対応が可能な医療機関に限定されます。また,一定期間,効果や副作用の調査をおこなうことになっています。 |
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セツキシマブ(アービタックス) 2008年承認
EGFR抗原を発現している切除不能または再発大腸がんの治療薬です。
アービタックスは,がん細胞が増殖するために必要なシグナルを受け取るレセプターであるEGFR(上皮成長因子受容体)を標的としています。
アービタックスがEGFRと結合すると,細胞を増殖させるシグナルが遮断され,がん細胞は増殖できなくなります。
アービタックスについての臨床試験は欧州で実施されたBOND試験で「イリノテカンで進行を止められなかった転移性・進行性の大腸がん患者218人に対して,イリノテカンとアービタックスの併用療法で,半数の患者で進行を4カ月以上遅らせることができ,20%の患者では50%以上の縮小がみられた。」と報告されています。
アービタックスに特有の副作用として,海外の臨床試験では皮膚障害,とくににきび様の発疹が報告されています。その他アナフィラキシー様反応,気管支喘息類似の症状,低血圧,心不全,下痢なども見られます。 |
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ダサチニブ(スプリセル) 2009年承認
イマチニブ抵抗性の場合の慢性期または移行性の慢性骨髄性白血病,再発または難治性の急性リンパ性白血病の治療薬です。
白血病に対する分子標的薬としてはイマチニブ(グリベック)が良好な治療成績をおさめており,このダサチニブ(スプリセル)はイマチニブでよい結果がだせなかった場合の2次治療薬として使用されています。 フィラデルフィア染色体が作り出す酵素にある2つの結合部に「基質たんぱく」と「ATP」という物質が結合すると,白血病の異常な細胞が増殖してしまいます。 この抗がん剤はこの結合を阻害することにより効果を発揮します。
副作用としては約半数の患者に血小板の減少が見られるほか,胸水や肺水腫,腹水などの体液貯留が見られます。その他の副作用として,脳・硬膜下・消化管の出血や間質性肺疾患などがあります。 |
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ニロチニブ(タシグナ) 2009年承認
イマチニブ抵抗性の慢性骨髄性白血病の治療薬です。
2001年に承認された分子標的薬イマチニブ(グリベック)は,7年全生存率86パーセントと良好な成績が報告されました。
ニロチニブ(タシグナ)は,慢性骨髄性白血病の患者のなかでイマチニブ(グリベック)で効果があがらない場合や副作用が強く中止せざるを得ない人を対象としています。
ニロチニブは,慢性骨髄性白血病の発症,進行の原因であるBCR-ABL遺伝子から作られるBcr-Abl蛋白にグリベックよりさらに強く,かつ選択的に結合するように開発された薬剤です。
グリベック使用の2次治療薬として承認されたニロチニブですが,その効果はイマチニブ以上と言われ,現在,初発の慢性骨髄性白血病患者を対象とした全世界規模での臨床試験が進行中で,その結果によっては慢性骨髄性白血病の患者に対する第1選択薬として認可される可能性も期待されています。
副作用では白血球減少症や血小板減少があり,歯茎出血・皮下出血など出血が見られる場合があります。その他,体液貯留や不整脈を起こすことがあります。 また,発熱やのどの痛みの他,重い肝障害や膵炎,間質性肺炎も報告されています。 |
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ラパチニブ(タイケルブ) 2009年承認
手術不能または再発乳がんの経口治療薬です。
ラパチニブ(タイケルブ)はがん細胞の増殖を促進するHER2(ErbB2)に対して強力な阻害作用を示し,乳がん細胞の増殖を抑制します。
ラパチニブは低分子化合物で,がん細胞の細胞膜を通過し,HER2の受容体シグナルの元を特異的に抑え,がん細胞の増殖を止め,アポトーシス(細胞の自然死)を促進させます。
適応となるのは,HER2陽性の乳がんで,トラスツズマブ(ハーセプチン)を含め既存の標準的化学療法で効果が得られない場合もしくは再発した場合です。
また,抗がん剤カペシタビン(ゼローダ)と併用で,奏効率も向上することが臨床試験で報告されています。
ラパチニブは,低分子化合物なので,血液脳関門を通過することが動物実験で確認され,乳がんの脳転移に対しても効果を期待されています。
重篤な副作用としては肝障害と間質性肺炎,心不全,不整脈があげられるほか,カペシタビン併用による手足症候群や骨髄抑制,感染症,下痢などにも注意が必要です。一般的な副作用としては,発疹,かゆみ,口内炎などが見られます。 |
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エベロリムス(アフィニトール) 2010年承認
根治性切除不能または転移性腎細胞がんの経口治療薬です。
エベロリムスはがん細胞の増殖や血管新生にかかわっている因子mTORタンパク を選択的に阻害し,腫瘍細胞の増殖抑制と血管新生阻害作用を発揮することにより,抗腫瘍効果を示します。
この抗がん剤はスニチニブ(スーテント)やソラフェニブ(ネクサバール)などキナーゼ阻害薬による一次治療後に悪化した症例において有効性が認められています。
スニチニブは国内外の臨床試験で服用後の間質性肺疾患が高頻度に報告されており,頻度は10%の患者に見られます。
したがって安全対策のため,この薬を処方できるのは一部の病院だけで,副作用への緊急対応が可能な医療機関に限定されます。
その他白血球減少や血小板減少などを生じる血液障害,高血糖や糖尿病の発症,発熱,口内炎など,副作用も多く,注意が必要です。 また,最近の第3相試験でスニチニブが進行膵内分泌腫瘍患者腫瘍患者の無増悪生存期間を2倍以上に延長したことが第12回世界消化器がん学会で報告されています。 |
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パニツムマブ(ベクティビックス) 2010年承認
KARS遺伝子野生型の治癒切除不能な進行・再発大腸がんの治療薬です。
パニツムマブはセツキシマブと同じ抗EGFRモノクローナル抗体製剤ですが,セツキシマブがマウス抗体を一部使用したキメラ型モノクローナル抗体であるのに対し,EGFRへの親和性が高いヒト型モノクローナル抗体である点が特徴です。
この治療薬はがん細胞が増殖するために必要なシグナルを受け取るレセプターであるEGFR(上皮成長因子受容体)を標的として,細胞を増殖させるシグナルを遮断し,がん細胞の増殖を抑制します。
このパニツムマブは国内外の臨床試験結果で,KRAS遺伝子の野生型(変異がない状態)患者の治癒切除不能な進行・再発の結腸癌・直腸癌に対して,他の抗がん剤FOLFOX4(フルオロウラシル・フォリン酸・オキサリプラチンの3剤)との併用やFOLFIRI(フルオロウラシル・フォリン酸・イリノテカン)との併用または単独投与で有用性が認められています。
ただ薬剤の使用に際しては,副作用は単独投与や他の薬剤併用投与(FOLFOX4またはFOLFIRI併用)においても98~99%とほぼ全症例において見られ注意が必要です。
重大な副作用としては,重度の皮膚障害(ざ瘡様皮膚炎や乾皮症など),間質性肺疾患(間質性肺炎,肺線維症,肺臓炎,肺浸潤),重度の発熱,悪寒,重度の下痢,倦怠感,食欲不振などが認められています。 |
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テムシロリムス(トーリセル) 2010年承認
根治切除不能または転移性腎細胞がんの治療薬です。
テムシロリムス(トーリセル)は,点滴静脈内投与により,がん細胞の増殖や血管新生にかかわっている因子mTORタンパク を選択的に阻害します。
その結果,腫瘍細胞の増殖抑制と血管新生阻害作用を発揮することにより,抗腫瘍効果を示します。
薬物による前治療を受けていない予後不良の進行性腎細胞癌の患者を対象とした海外第Ⅲ相臨床試験において,全生存期間の中央値は,インターフェロンアルファ(IFN-α)単独投与群で7.3ヵ月であったのに対し,テムシロリムス25mg週1回単独投与群では10.9ヵ月と延長が認められました。
また,日本,韓国及び中国で進行性腎細胞癌患者を対象として実施した国際共同(アジア)第Ⅱ相臨床試験において,トーリセル25mgを週1回投与した奏効率(完全奏効+部分奏効)は11.8%,臨床的利益率(完全奏効+部分奏効+24週以上の安定)は47.4%と日本人を含むアジア人の進行性腎細胞癌に対する有効性が確認されました。
海外での第3相臨床試験では93.8%の患者に何らかの副作用が認められています。 副作用としては無力症(39.9%),発疹(33.7%),貧血(32.7%),悪心(26.0%),高脂血症(24.5%),食欲不振(22.6%),高コレステロール血症(20.7%),口内炎(19.7%),粘膜炎(18.3%)が報告されています。
重大な副作用は,間質性肺疾患があり,国内を含む国際共同(アジア)第Ⅱ相臨床試験では,全82症例のうち,医師報告による間質性肺疾患が14例あり,うち1例が死亡した例が1例あります。
この薬剤は安全性確保のため,製造元のファイザー社の意向により施設要件を設定することで販売先を特定しています。 |
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分子標的治療薬の問題点
正常細胞に影響を与えない,画期的ながんの治療薬として開発され,期待された分子標的治療薬ですが,効果があるのは患者の一部であり,また,がんが進行していくと効果が薄れていくことが多いということがわかってきています。
これはがんの変異した遺伝子は1種類ではなく複数あり,進行すると遺伝子の変異が増加し,対応しきれないことが効果があがらない原因の一つと考えられています。
また,従来型の抗がん剤と同様,多くの分子標的治療薬に副作用が見られるだけでなく,一部の患者には上記に示したような間質性肺疾患など重篤な副作用も見られ,正常細胞にも影響を与えていることもわかりました。
現在のところ,固形がんを単独で治癒できる分子標的薬はなく,従来型の薬剤と併用されるケースが多いというのが実情の様です。 |
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