がん免疫療法の歴史

    世界ではじめての免疫療法は種痘 

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がん免疫治療の歴史

 
 
   

古代から知られていた獲得免疫



人類の歴史において,「一度伝染病にかかり,回復した人は二度と同じ伝染病にかからない。」という獲得免疫の記述がみられるのは,古代ギリシアです。

当時シチリアのシラクサを巡って,ギリシアとカルタゴが対立し,二度に渡って戦争がおこなわれました。

カルタゴ軍は若い兵士が多かったのですが,ギリシア軍は老兵が多かったそうです。

しかし,ギリシア軍は老兵が多かったにもかかわらず,勝利したのです。その理由は,ペストが発生したからです。



シラクサを巡る戦いで,1回目にもペストが発生したのですが,2回目の戦いにおいてギリシア軍はそのペストを生き抜いた兵士が多かったため,ペストに感染せずに,戦いを有利に展開できたのです。

このように古代から,免疫細胞のはたらきの仕組みはわからないにしても,経験的に「同じ伝染病には二度かからない」という現象は知られていたようです。



時代も下って,14世紀になるとヨーロッパでペストが大流行しました。

当時はキリスト教の僧侶や騎士団が病人の看護も行いましたが,その中で,ペストに感染しながらも回復した人は二度とペストには感染しませんでした。

当時では,この人達こそ「神のご加護」を得た者として,ローマ法王から課役や税金を免除されました。

このことに対して,法王の課税(munitas)を免がれる(im)という意味で,immunitasという単語が用いられ,それが今日のimmunity(免疫)という言葉の語源になっています。

医学の発達していない当時,ペストに二度とかからなくなった人は神の力によるものと考えられていたようです。



世界で初めての免疫療法はジェンナーの種痘


ペストの流行から,400年以上経て,18世紀〜19世紀にかけ,ようやく免疫を利用した治療法が生まれます。

免疫療法の一種といえるワクチン療法を考案した人物がイギリスのエドワード・ジェンナー(1749〜1823)です。

彼は牛の乳搾りをしている娘が,牛の天然痘といえる牛痘にかかっても,人が感染する天然痘にはかからないことを発見します。

牛痘の症状はでは手に水疱ができるなど軽いものです。そこで,牛痘にかかった娘の水疱からとった液体を少年に投与した後,天然痘を少年に接種しましたが,少年は天然痘にかかりませんでした。



これが,世界ではじめてのワクチン療法といえる免疫治療です。

現在では,この治療は広く普及し,インフルエンザワクチンや子宮頸がんワクチンなどがおこなわれています。

さらに,がん細胞の抗原を患者にワクチンとして投与することで,がんを治療しようする方法も開発されています。



コーリーの毒と呼ばれる免疫治療をおこなったウィリアム・コーリー


米国の医師ウィリアム・コーリー(1862〜1936)は,外科医でしたが,がんを手術した後に,猩紅熱(しょうこうねつ)という感染症にかかり,高熱を出した患者が,術後の経過が良好であることに気づきます。

その当時,「がん患者が他の病期になり,高熱を出すと,なぜか,がんが縮小していたり,消えたりすることがある。」と医師の間で語られるようになっていました。

コーリーはこの治療法をがん治療に応用できるのではと考えました。

そこで,感染すると高熱を出す何種類かの病原菌を集め,これを弱毒化したり,死滅させたりして腫瘍部やその周辺に接種したのです。

コーリーの思惑は当たり,腫瘍が消滅するケースもあり,成功をおさめましたが,一方では感染症でなくなる患者も出てしまいました。

これが,現在では,「コーリーの毒」とか「コーリーワクチン」と呼ばれる治療法です。

現在では,「コーリーの毒」による治療は,接種した病原菌により免疫細胞が刺激され,がんを殺す機能を持つ,サイトカインTNFの分泌された結果によるもの,と考えられています。

しかし,その後,放射線治療や手術,抗がん剤の進歩によって,この「コーリーの毒」は医学関係者から顧みられなくなっていきました。




免疫細胞療法の元祖はアメリカのスティーブン・ローゼンバーグ博士


1980年代の近代に入り,免疫学の進歩と共に,免疫療法もがん治療に応用されるようになりました。

免疫細胞は,細菌やウイルス,がん細胞を攻撃するために,様々な物質を分泌しています。

その一部がサイトカインと呼ばれるもので,1980年代には人工合成に成功し,医薬品としてがん療に使われるようになりました。 

最初に使用されたのがサイトカインの一種インターロイキン2です。

インターロイキン2は,リンパ球の増殖因子でリンパ球の数を増やす効果があります。

このほかにも,腫瘍壊死因子TNF,インターフェロンなどが登場し,これらを患者に投与して,がんを治療しようとするサイトカイン療法がおこなわれるようになりました。

これらは,注射で,大量に投与すると高熱がでたり,肺に障害が起こるなどの副作用も問題となっていました。



アメリカのスティーブン・ローゼンバーグ博士は,このようなサイトカインを利用した新たな治療法を開発しました。

その治療法とは,患者からリンパ球を大量に摂取し,インターロイキン2の培養液で活性化させ,それらをインターロイキン2と共に患者の体内に戻すという治療法です。
 

この治療法は,「LAK(リンホカイン活性化キラー)療法」とよばれ,現在おこなわれている免疫細胞療法のはしりといわれています。



現在,免疫細胞療法は改良され,様々な治療法が開発されている

ローゼンバーグ博士がはじめた治療法はNK細胞を中心とした,「リンパ球療法(LAK療法)」です。

この治療法ではリンパ球の大量摂取やインターロイキン2の直接投与が患者の身体的負担となり,現在ではこの方法はおこなわれてはいません。


「LAK療法」ではT細胞を活性化できなかったことから,次に登場したのがT細胞を活性化させる「CAT療法」です。

この治療法では,T細胞に抗CD3抗体でT細胞のCD3分子を活性化させ,さらに,インターロイキン2を加え,細胞に増殖をうながします。

そして,増殖したT細胞を体内に戻すという治療法です。この方法は現在でも,広くおこなわれています。


「CAT療法」とよばれる方法の他には,80年代の終わりごろから90年代にかけて,がん抗原をTリンパ球に認識させる「CTL療法」や,腫瘍から採取したT細胞を利用する「TIL療法」が登場します。


90年代になると,免疫細胞の司令塔である樹状細胞を活用した「樹状細胞療法」が開発されます。

現在では,最近発見されたNK細胞とT細胞の両方の性質をあわせ持つ,NKT細胞による免疫細胞治療もおこなわれるようになりました。


また,がんの種類によって,活用する免疫細胞の種類や治療法をかえるテーラーメイド治療も一部の施設でおこなわれるようになりました。


さらに,免疫細胞の活性を抑制するがん細胞のシステムが明らかになり,免疫を抑制する制御性T細胞(Treg)をはじめとする,免疫抑制機構をいかに排除するかという研究が進んでいます。


人体の免疫システムは実に複雑で,現在でも,未だわからないことが数多くあります。

今後も,免疫システムの謎が解明されると共に,がんの免疫治療は進歩し,治療成績もさらに向上していき,がん治療の重要な柱の一つになることでしょう。


   
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