がんの疼痛と緩和ケア


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がんの疼痛治療
がんの疼痛緩和治療は必要不可欠
 
 がん患者は痛みを感じることが多く, がん患者が痛みを感じるのはがんの早期でも30%で,末期がんになると約70%が痛みを感じると言われています。

 がんの強い痛みが続くと夜眠れなくなったり,食欲が落ちてきます。さらにはその恐怖や不安から精神的に不安定にもなります。

 がんの痛みはこのように本人の体力を奪い,精神的にもダメージを与えますので,がん治療にはがんの疼痛を和らげる治療が必要不可欠です。
 
 また,切除不能の患者のケースなど,疼痛を取ったほうが,生存率が向上するというデータもあります。

 しかし,日本ではがんの疼痛緩和に使用される薬剤に対する偏見もあり,十分な疼痛治療が行われていないという実態があります。

 がん性疼痛の治療にはモルヒネなどの医療用麻薬の積極的使用が推奨されていますが,日本での使用量は先進諸国に比較するとかなり少ないのが現状です。

 医師がモルヒネの依存性を懸念して,医療用麻薬の使用を躊躇したり,処方している場合でも,鎮痛に充分な用量まで増量していないことが多いと言えます。

 WHO(世界保健機関) が提唱した「WHO方式がん疼痛治療法」に従えば,安全性も高く,「疼痛消失」が86%,「疼痛ほぼ消失」が11%と,約95%以上の効果が得られるとされています。

 現在
がんの痛みの多くはなくすことができ,適正に使用される限り,モルヒネなどの鎮痛薬により,薬物依存になることはなく,幻覚が現れるようなこともありません。また,連用により鎮痛耐性が形成されるということもほとんどありません。

 患者の立場としてもそこを良く理解して,痛みを無理に我慢する必要はなく,積極的に疼痛緩和治療を受けるべきでしょう。


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がんの痛みとは何か

 がんが発生するとなぜ痛みが起こるのでしょうか。 がんの痛みにはさまざまな原因がありますが,最も多いのが,がんそのものによって起こる「がん性疼痛」であり,痛みの約70%をしめます。

 がんは進行すると,病巣が大きくなり,周囲の組織を刺激するようになります。身体の組織にはさまざまな刺激を感じる受容体(これを侵害受容体と言います。)が存在し,がんが進行して皮膚,筋肉,内臓,骨などに付随した侵害受容体を刺激することで痛みを感じるようになります。

 また,がんの進行により,末梢神経が圧迫されることで「神経障害性疼痛」と呼ばれる,しびれるような強い痛みを感じることもあります。


 がんに直接関係のない痛みも30%見られます。それは,抗がん剤投与による末梢神経障害や副作用としての口内炎,手術の傷口の痛みなど,がん治療に関連する痛みであり,寝たきりになったための全身衰弱による筋肉痛や関節痛などの痛みです。

 また,片頭痛,関節リウマチ,単純疱疹(ヘルペス)など,がんに関係のない痛みががんと併発することもあります。


 痛みの原因として心理的な痛みもあります。自分は治らないのではないかとか,医師や看護師との意思疎通ができない,家族が自分を理解してくれないなどの疎外感,絶望感はしばしば痛みを増強させてしまうことがあります

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がんの痛みの伝え方

 痛みを取り除くには医師に痛みの性質や程度を伝えなければなりません。なかには痛みを我慢してしまい医師に訴えない患者もいるようですが,医師が患者の痛みを把握することは,痛みを取る治療ができるだけでなく,がん治療においても重要な情報となるため,できるだけ詳しく伝えましょう。

 がんの痛みは検査ではわからないので,痛みがあったら遠慮なく医師や看護師にすぐに伝えることが大切です。

 伝え方として,いつ頃からどこが痛むのか,痛みの程度はどれくらいなのか,どのような痛みなのか(鋭い痛み,鈍い痛み,キリキリ,ズキズキする痛み,焼けるような痛み,うずくような痛みなど),また痛みにより眠れなくなった,食欲がなくなったなど,と具体的に伝えましょう。

 また,現在の痛みの状態を日記に記録し,医師にそれを見せることも効果的です。医師は日記を見ることでがんの痛みの情報を正確に把握し,対処することができます。


がん性疼痛の治療法

 
 がん性疼痛の治療法は大きく分けて3つあります。第一は痛みの原因であるがんを取り除くことであり,第二は痛みの場所や脳に鎮痛剤を投与することで,第三は痛みの伝達経路を遮断することで,これは「神経ブロック」と呼ばれます。

 また,痛みが大変強く,鎮痛剤だけでは痛みを抑えることができない場合,薬剤により,患者の意識を低下させるという方法もありますが,これは鎮静(セデーション)と呼ばれ,鎮痛剤による方法とは異なります。

 この中で,まず優先すべきはがんそのものを取り除くことであり,手術や放射線,抗がん剤などによって行われますが,このような治療では根治は出来ない場合でも,痛みを和らげることができます。

 以下にWHO方式がん性疼痛の治療法について述べますが,WHO方式はがんの痛みを軽度,中等度,高度の3段階にわけ,鎮痛作用の弱い薬剤から強い薬剤へと切り替えていくところに特徴があります。

 軽度の痛みには非オピオイド鎮痛薬が,中等度の痛みには弱オピオイド鎮痛薬が,高度の痛みには強オピオイド鎮痛薬が使用されます。

 このオピオイドとは医療用麻薬のことを言い,代表的なものにモルヒネがあります。弱オピオイド薬ではリン酸コデインが代表的なものです。

 非オピオイド鎮痛薬にはアセトアミノフェンや非ステロイド系抗炎症薬がありますが,ある一定量を超えると効果が上がらず,副作用のみ増強するという有効限界量があります。しかし,モルヒネなどのオピオイド薬には有効限界がなく,増量するほど効果があります。

 
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WHO方式がん性疼痛の治療法

 現在,「WHO方式がん疼痛治療法」は1986年に公表され,その後1996年の改定を経て現在,世界基準とも言うべきがん疼痛治療のガイドラインです。

WHO3段階徐痛ラダー;WHO three-step analgesic ladder
                           ※±は加える場合も加えない場合もあることを示す。

第一段階非オピオイド鎮痛薬±鎮痛補助薬
 鎮痛補助薬(主たる薬理作用には鎮痛作用がないが鎮痛薬と併用すると,鎮痛効果を高め,鎮痛効果を示す薬剤)
  • アセトアミノフェン
  • 非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDs)アスピリン類・イブプロフェン・インドメタシン・ナプロキセン等
      
  • 鎮痛補助薬
      
    塩酸アミトリプチリン・カルバマゼピン・プレドニゾロン・ベタメタゾン・塩酸リドカイン

痛みの残存又は憎強
第二段階軽度から中等度の麻薬性鎮痛薬±非オピオイド鎮痛薬±鎮痛補助薬
  • 軽度から中等度の麻薬性鎮痛薬(コデイン類)
     リン酸コデイン・オキシコドン・トラマドール

痛みの残存又は憎強

    ↓
    
第三段階中等度から強度の麻薬性鎮痛薬(モルヒネ類)±非オピオイド鎮痛薬±鎮痛補助薬
  • 中等度から強度の麻薬性鎮痛薬(モルヒネ類)
     塩酸モルヒネ・フェンタニル・オキシコドン・ブプレノルフィン

  • 常用のNSAIDsで効果が不十分な場合は,経口摂取が可能であれば,オキシコドン徐放錠,経口摂取が困難であれば,塩酸モルヒネの持続注入または持続皮下注を第1選択とする。
  • モルヒネに反応しにくい痛みに対しては,痛みの機序に基づく治療法を選択することによって,患者のQOLの向上を図る。
  • 最近は,多様な形態のオピオイド製剤がある。
  • 経腸栄養の場合は,硫酸モルヒネ徐放錠,いずれも使えない場合は,フェンタニルパッチを選択する。必要に応じて,ステロイドなどの鎮痛補助薬を併用し,それでも充分な除痛がで危難場合は,オピオイドローテーションを実施する。
 
WHO方式がん疼痛治療 薬剤投与のガイドライン

 WHO方式がん疼痛治療は鎮痛薬を鎮痛作用と特性を考慮して三つの種類に分類し,その使用について5つのガイドラインを提示しています。

鎮痛剤は
  1.非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)- アスピリン,ボルタレン等
  2.弱オピオイド - コデイン等
  3.強オピオイド - MSコンチン等


 

1)経口的に(by mouth)

がんの痛みに使用する鎮痛薬は簡便で,用量調節が容易で,安定した血中濃度が得られる経口投与とすることが最も望ましい。


2)時刻を決めて規則正しく投与(by the clock)

痛みが持続性であるときには,24時間痛みの起こらない量の鎮痛薬を時刻を決めて規則正しく投与する。頓用方式の投与方法を行ってはならない。


3)除痛ラダー(段階)にそって効力の順に(by the ladder)

鎮痛薬を除痛ラダーに従って順次選択していく。
(1)軽度の痛みには、非オピオイド鎮痛薬を使い,必要に応じて鎮痛補助薬を併用する。
(2)非オピオイド鎮痛薬が十分な効果をあげないときには,ためらわず非オピオイド鎮痛薬に追加して「軽度から中等度の強さに用いるオピオイド」または「中等度から高度の痛みに用いるオピオイド」を処方し、痛みの強さに応じて漸増する。

(3)モルヒネやオキシコドンは有効限界がないので,増量すれば、その分だけ鎮痛効果が高まる。


4)患者ごとの個別的な量で(for the individual)

オピオイド鎮痛薬には標準投与量というものがないことを理解しておく。適切な投与量とは,その量でその痛みが消える量である。


5)その上で細かい配慮を(attention to detail)

時刻を決めて規則正しく用いることの大切さを患者によく説明しておく。予想される副作用についても患者に予め話しておくべきである。また,患者にとって最良の鎮痛が得られ,副作用が最小となるように治療を進めるには,治療による患者の痛みの変化を監視し続けていくことが大切である。


 非オピオイド鎮痛薬とは
 非オピオイド鎮痛薬とは,軽度のがんの疼痛に使用される薬剤で,非ステロイド性消炎鎮痛薬(NSAIDs)とアセトアミノフェン(カロナール)があります。これらの薬はオピオイド鎮痛薬との併用で鎮痛効果が増強されます。

 この中で非ステロイド性消炎鎮痛薬とは文字通りステロイド以外の鎮痛薬という意味ですが,一般的にはシクロオキシゲナーゼ(COX)という酵素の働きを阻害する薬剤です。


 末梢性作用を主体とした鎮痛薬で,局所のプロスタグランジン産生を抑制することで鎮痛効果を示します。

 非ステロイド性消炎鎮痛薬剤は副作用として胃・十二指腸粘膜障害が起こりやすくなるため、使用に際してH2ブロッカー(アシノンやチザノン)プロトンポンプインヒビター(ランソラール)を併用します。 

 薬剤として,ナプロキセン(ナイキサン),インドメタシン,イブプロフェンジフルニサル,ロキソプロフェンナトリウムなどがあります。


 オピオイド鎮痛薬とは
 オピオイド鎮痛薬には弱オピオイド鎮痛薬のリン酸コデインやモルヒネなどの強オピオイド薬があります。

 既に述べた,非ステロイド系消炎鎮痛薬は主に末梢神経に働きかけて鎮痛作用を発揮しますが,オピオイド鎮痛薬は直接大脳に作用を及ぼす薬です。

 これらの鎮痛薬は「中毒になったり,死期を早めてしまうのではないか。」などといった誤解がありますが適切に使用される限り,疼痛が緩和されるだけでなく,上記にも述べたように延命効果があります。

弱オピオイド鎮痛薬

リン酸コデイン
 現在,弱オピオイド鎮痛薬としてはリン酸コデイン(リン酸コデイン)があります。

 リン酸コデインは体内に吸収されると約10%が肝臓でモルヒネに変換されて鎮痛効果を発揮します。しかし,モルヒネに変換されるとき機能する酵素の活性には個人差があるため,この鎮痛薬が効果を発揮しない人もいます。そのような人は,早めに強オピオイド鎮痛薬に切りかえる必要があります。

 リン酸コデインの副作用として眠け,悪心,嘔吐,便秘,排尿障害などがあります。


強オピオイド鎮痛薬

 強オピオイド薬には,モルヒネ,オキシコドン,フェンタニルなどがあります。

モルヒネ

 モルヒネはアヘンからつくられた天然成分で医療用麻薬と呼ばれています。モルヒネは病期にかかわらず一定の鎮痛効果が得られるという優れた特徴を持っています。

 モルヒネには麻薬のマイナスイメージが強く,「中毒になるのでは」「廃人になるのでは」「終末期に使われる」などの誤解や偏見がありますが,決して薬物依存や中毒になることはなく,がんの初期でも使われる場合もあります。

 モルヒネの剤型は錠剤,カプセル,粉末,穎粒,内服液,座薬,注射液と多様で,痛みの状態に合わせて使用されます。
 
 モルヒネの鎮痛作用は強力で,また,有効限界がないのも特徴で,より強い痛みに対しては用量を増やすことで対応可能です。

 モルヒネ速放剤は吸収が早く,服用してから30分から1時間以内で最大効果を発揮しますが,その分,効果の持続時間は3〜5時間程度です。

 これに対して徐放剤は効果を発揮するまで時間がかかりますが,効果が長時間持続するという特徴があります。

 モルヒネの副作用として,吐き気や眠気が3割程度の人に見られ,便秘は多くの人に見られます。
 吐き気は制吐剤で抑えられますし,便秘は適量の下剤で対処します。

 眠気は1週間ほどで自然に解消するケースが多いので心配はありませんが,患者が希望すればカフェイン等を投与するという方法もあります。 


オキシコドン
 人工的に合成された鎮痛薬で,中等度から高度の疼痛に使用されます。モルヒネ同様に有効限界がないのも特徴で,より強い痛みに対しては用量を増やすことで対応可能です。

 便秘や吐き気,眠けなどの副作用が見られますが,モルヒネよりも便秘や吐き気などの副作用が少ないのが特徴です。


フェンタニル
 フェンタニルは合成麻薬で,その鎮痛効果はモルヒネの100倍から200倍とも言われ,持続する鈍痛に効果が高いという特徴があります。

 パッチ薬(商品名:デュロテップパッチ)として使用される場合が多く,特に経口モルヒネが使えない患者に有効です。

 このようにパッチ薬として使用された場合,72時間効果が持続し,モルヒネほどの副作用は見られないというメリットがあります。

 ただし,皮膚に何らかの異常がある場合はそこに貼付できず,効果を発揮するには皮膚に密着させる必要があります。

 また注射液は麻酔薬として使用されることもあり,鎮痛作用も短時間で効果を発揮します。
副作用は眠気,発疹,便秘,嘔気,嘔吐等 が見られます。



疼痛以外の症状と緩和ケア
 食欲不振
 がんの病状が進行すると一般的に食欲が減退し,体力も低下してきます。食欲不振の原因としては吐き気や嘔吐がありますが,これは治療の副作用として,また,がん病巣の広がりによる嘔吐中枢への刺激などでも起こります。

 その他に味覚の変化や便秘などがあり,食欲が低下することもあります。 がんが進行して衰弱して抵抗力が低下すると,口の粘膜が荒れて口内炎ができたり,飲み込みが困難になる嘸下障害が起きたりします。

 がんの末期では,がん悪疫質になり,食欲不振が長期に渡ると体力が低下し,さらに食欲が低下するという悪循環になります。

 食欲不振の原因が特定されるときには,それぞれの症状に合った薬剤を投与します。たとえば消化管閉塞で手術ができない場合は酢酸オクトレオチドが投与されます。 また,吐き気には制吐剤が,便秘には下剤が,口内炎にはステロイド薬が処方されます。

 特に口内炎には歯磨きやうがいをこまめにおこない,口の中を清潔に保つ工夫も必要です。また,ビタミン不足(特にビタミンB群)から口内炎が起きる場合もあるので,サプリメントで改善する場合もあります。

 食欲低下に対しては,漢方薬,ステロイド剤,健胃薬などで改善されることもありますが,どうしても食べられない場合は,中心静脈栄養法や経管栄養法などの輸液で栄養補給手段がとられる場合もあります。

中心静脈栄養法(高カロリー輸液療法)

 鎖骨下静脈などから心臓に最も近い大静脈までカテーテルを入れて輸液ラインを確保し,このラインを通して栄養補給する方法で,点滴のたびに静脈に針を刺す必要がありません。

 末梢静脈では,高濃度のブドウ糖やアミノ酸の溶液を注入すると,末梢静脈炎を起こすため,一日に必要な充分量の栄養を入れることができませんが,中心静脈では心臓に近い太い静脈であるため,1日に必要とする完全な栄養やカロリーを入れることが可能です。

経管栄養法

 胃や小腸までカテーテルを挿入し,流動食を注入します。カテーテルは鼻腔から挿入ますが,それができない場合は,わき腹などを切開して挿入する場合もあります。



 全身倦怠感
 全身倦怠感は,がん患者によく見られる症状で,その原因は様々です。抗がん剤治療を受けた患者や放射線治療を受けた患者にも多く見られますし,手術後,体力低下にともなって見られる場合もあります。

 がんが進行することによる悪疫質になると多くの患者が全身倦怠感や脱力感を訴えます。この倦怠感に対する特効薬はありませんが,不眠などによる疲労の蓄積であれば,その不眠の原因を取り除く対処法が必要となり,睡眠導入剤などによる方法もあります。

 この倦怠感には心理的側面も関係しており,改善が難しい面もありますが,家族やケアスタッフとのコミュニケーションにより,気分転換をはかるなどの工夫も必要です。

 また,副腎質ステロイド剤の投与で症状が緩和される場合もあります。


 むくみ(浮腫)
 むくみ(浮腫)には全身に見られる場合と手や足の局所に見られる場合があります。むくみ(浮腫)とは,血液中の体液が血管外に漏れ出るなどして,血管外皮下組織に溜まった状態をいいます。

 局所性では,がんの手術の後にリンパの機能が低下し,リンパ浮腫になることもありますが,全身性のむくみの原因として,血液のタンパク質の減少による浸透圧低下があげられます。

 がんが進行すると低栄養状態となり,肝臓や腎臓の機能も低下するため,むくみが起きやすくなります。
 浮腫の治療には利尿剤やアルブミンなどのタンパク製剤が使用されますが,がんの進行と共に効果が薄れてきます。

 むくみのために,皮膚が炎症を起こす場合もあり,皮膚を清潔に保ち,傷つけないよう,注意が必要です。 また,摩擦などにより,褥瘡(じょくそう)(床ずれ)を起こさないように気をつける必要があります。 

 むくみ(浮腫)のある部分を枕などで持ち上げ,体液の移動を促したり,体の向きを変えたり,床ずれ防止用のマットを利用する方法もあります。

 リンパ浮腫の場合,基本的には体液の循環をよくすることが大切なので,体を冷やさず,マッサージや適度な運動,弾性ストッキングが効果的です。 マッサージなどは自己流で行わず,医師や看護師に相談し,専門家の指導を受けましょう。



腹水
 腹水の多くは胃がんなどの消化器系のがんで起こりますが,腹水の原因もむくみの原因と共通する部分があります。

 腹水の原因で一番多いケースが血液の中のタンパク質(アルブミン)が少なくなり,血管の外に出た水分を血管に戻す力が足りなくなる場合です。

 アルブミンを作っているのは肝臓なので,肝臓の力が弱くなると,腹水が増えやすくなります。

 また,がんが腹膜に転移して,がん性腹膜炎になると見られます。横隔膜の下にあるリンパ管ががんによって,圧迫されたりすると,漏れだしたリンパ液が腹腔内に貯まります。

 腹腔内に異常がなくとも,肝臓付近の血管や心臓,リンパ管などに異常があっても腹水が見られます。

 腹水の治療は,原因や症状によりさまざまですが,利尿剤を使用して,尿を多く排出させ,血液の中の水分を尿に出すことで血液のアルブミン濃度を上げ,腹水の水分がより多く血管の中に戻ってくるようにします。

 利尿剤を使っても腹水が増えてくる場合には,腹腔穿刺(ふくくうせんし)を行い,腹壁に針を刺し,直接腹水を抜く治療を行います。

 米国での大規模比較試験では「利尿剤よりも腹腔穿刺の方が,安全かつ確実に腹水による症状を楽にする。」という結果が報告されています。

 しかし,一度に全部抜くのは,体液バランスが崩れ,血圧が低下したり,体力の消耗,免疫細胞の消失などがあり,危険なため抜き取るのは一部でなければなりません。

 また,抜く腹水の量1リットルあたり6〜10グラムのアルブミンを点滴で補充することが有効といわれています。
 
 腹腔内(腹膜の袋の中)に抗がん剤を入れる治療が腹水を減らすのに効果があることがあります。


呼吸不全
 呼吸困難は「息苦しさを感じる」という症状を指し,肺がん患者に多く見られます。
 肺がんのなかで,肺の入り口付近にできる肺門型肺がんは進行すると,気管支の内腔を狭めるため,呼吸困難が起こります。

 空気の流入が悪くなると、空気が浄化できず,感染症が起こりやすくなります。その結果,閉塞性肺炎が起こり,せき,発熱,胸痛などが見られます。
 
 また,胸水,腹水,肝臓の腫れ,うっ血性心不全などがあると,肺が圧迫されるために呼吸困難が起こります。

 呼吸困難は,貧血,発熱,感染症などでも起こりますが,心理的な不安感で起こることもあります。
 息苦しさは,不安を強く感じる人が多く,心理的不安を取り除くことがとても大切です。

 対症療法としてモルヒネや,抗不安薬,副腎皮質ステロイド薬,気管支拡張薬を併用します。末期になると気道内の分泌が増加し,呼吸が苦しくなった場合,麻酔薬の一種,臭化水素酸スコポラミンを皮下注射します。

 モルヒネは量が多すぎると呼吸を弱める副作用があり,息苦しさには少量で効くことが多く,少量から始めて少しずつ増量すれば,問題はありません。

 自力で呼吸できない場合,器官を切開し,人工呼吸器を装着することもあります。また,鼻の中に鼻腔カテーテルを入れ,酸素療法が行われることもあります。この方法は呼吸困難による酸素不足を解消するだけでなく,患者を安心させる効果もあり,苦痛の緩和に役立ちます。

 呼吸困難は姿勢によってかなり楽になる場合もあります。ベットの角度を調節するなどして楽な呼吸の姿勢を見つけましょう。

 座った姿勢の方が少ない力でより多くの酸素を取り込めるため,楽な場合があり,呼吸はあおむけに寝た姿勢より,上半身を起こしてベッドにすわったほうが気道が広くなるので,楽になります。


せき・喀痰困難
 せき・喀痰困難は呼吸困難と同様,肺がんの患者に多く見られますが,肺がん以外でも,がんの進行と共に咽頭,喉頭,気道,胸膜,心膜,横隔膜などが刺激を受けると,せきが出るようになります。

 せきは気道内の異物や痰を出すための反射運動であり,無理に止めてしまうことにも問題がありますが,はげしいせきは,体力を消耗するだけでなく,不眠,食欲不振,吐きけ・嘔吐,筋肉痛,肋骨骨折などの原因にもなるので,症状を軽くすることが必要です。
 
 せきに対する対症療法として,鎮咳剤,去痰剤,気管支拡張剤の他,局所麻酔薬のリドカインや副腎皮質ホルモン剤などが投与されます。

 また,たんがからんで呼吸困難になる場合もあり,体力が落ち,衰弱していると自力で排出することが困難になります。

 このような場合は,吸引器の管を気道に挿入し、たんを吸引するという方法があります。 また,軽く背中や胸をたたいたり,姿勢を変えるなどして,たんの排泄がスムースにできるようケアすることも
大切です。



発熱
 がん患者は,抗がん剤の副作用や免疫力低下による感染症など,さまざまな原因で熱が出ることがあります。
 
 抗がん剤の投与による発熱は2〜3日で下がりますので,あまり心配はありませんが,抗がん剤の副作用として白血球が減少し,そのために免疫力が低下して感染症にかかりやすくなり,発熱する場合もあります。
 
 既に述べたようにがんによる発熱は感染症だけではありませんが,発熱は免疫細胞を活性化する体の防御反応の1つであり,むやみに下げるのはよくありません。

 しかし,発熱のために体力を消耗したり,食欲が低下する場合には解熱剤を処方してもらい,熱を下げる必要があります。


吐き気・嘔吐
 吐き気や嘔吐は抗がん剤治療や放射線治療,モルヒネなどの副作用として見られる他に,がんそのものが胃,腸,肝臓,脳などへ拡大することで,嘔吐中枢を刺激することでも見られます。

 また,がんの再発・転移による消化管の圧迫・狭窄(きょうさく),手術後の腸管癒着などの原因でも起こります。

 その他,不快なにおい・味覚などが原因となり,これらの刺激が嘔吐中枢を刺激して起こる場合もあり,さらに緊張や不安感などの心理的要因も関わってきます。

 がん病巣の広がりに対してはその治療が第一ですが,現在は優れた制吐剤が開発されているので
それらを処方して,経過を観察します。

 嘔吐した場合は必ず,口をすすぎ,口腔内の清潔を保つことが大切です。


消化管閉塞
 がんの進行に伴い,消化管閉塞を起こす患者は少なくありません。消化器のがんが進行して大きくなったり,近くのがんが増大して消化器を圧迫したり,ほかの臓器のがんの転移や浸潤により,内腔が狭くなると,通過障害が起こります。

 また,腹水がたまることでも消化管が圧迫されるために,通過障害が起こります。
これによる腹痛や膨満感,吐き気などの症状は患者のQOLを低下させ,また食事の摂取をも困難にさせます。

 患者の体力があり,原因になっている部分を手術で切除すれば症状が改善するとはっきり予測でき,本人が希望する場合には,手術をして改善することもあります。しかし,それだけの体力が患者に残っていない場合もあります。

 そのような場合,こうした症状に対しては,消化管内の水や電解質の吸収を促進する酢酸オクトレオチドの投与が有効であり,その有効性を筑波大学大学院の谷水正人氏が第46回日本癌治療学会総会でも報告しています。
 

 オクトレオチドとは脳の視床下部から分泌されるソマトスタチンというホルモンの合成類似物です。ソマトスタチンは作用時間が短く,薬としては使いにくいので,作用する持続時間を長くしたのがオクトレオチドです。
 
 オクトレオチドは消化管の壁から電解質や水分が分泌されるのを抑制する作用や吸収を促進させる作用があるため,膨満感が解消されると共に,吐き気・嘔吐も改善されます。
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