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疼痛以外の症状と緩和ケア |
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■ 食欲不振 |
がんの病状が進行すると一般的に食欲が減退し,体力も低下してきます。食欲不振の原因としては吐き気や嘔吐がありますが,これは治療の副作用として,また,がん病巣の広がりによる嘔吐中枢への刺激などでも起こります。
その他に味覚の変化や便秘などがあり,食欲が低下することもあります。 がんが進行して衰弱して抵抗力が低下すると,口の粘膜が荒れて口内炎ができたり,飲み込みが困難になる嘸下障害が起きたりします。
がんの末期では,がん悪疫質になり,食欲不振が長期に渡ると体力が低下し,さらに食欲が低下するという悪循環になります。
食欲不振の原因が特定されるときには,それぞれの症状に合った薬剤を投与します。たとえば消化管閉塞で手術ができない場合は酢酸オクトレオチドが投与されます。 また,吐き気には制吐剤が,便秘には下剤が,口内炎にはステロイド薬が処方されます。
特に口内炎には歯磨きやうがいをこまめにおこない,口の中を清潔に保つ工夫も必要です。また,ビタミン不足(特にビタミンB群)から口内炎が起きる場合もあるので,サプリメントで改善する場合もあります。
食欲低下に対しては,漢方薬,ステロイド剤,健胃薬などで改善されることもありますが,どうしても食べられない場合は,中心静脈栄養法や経管栄養法などの輸液で栄養補給手段がとられる場合もあります。
●中心静脈栄養法(高カロリー輸液療法)
鎖骨下静脈などから心臓に最も近い大静脈までカテーテルを入れて輸液ラインを確保し,このラインを通して栄養補給する方法で,点滴のたびに静脈に針を刺す必要がありません。
末梢静脈では,高濃度のブドウ糖やアミノ酸の溶液を注入すると,末梢静脈炎を起こすため,一日に必要な充分量の栄養を入れることができませんが,中心静脈では心臓に近い太い静脈であるため,1日に必要とする完全な栄養やカロリーを入れることが可能です。
●経管栄養法
胃や小腸までカテーテルを挿入し,流動食を注入します。カテーテルは鼻腔から挿入ますが,それができない場合は,わき腹などを切開して挿入する場合もあります。
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■ 全身倦怠感 |
全身倦怠感は,がん患者によく見られる症状で,その原因は様々です。抗がん剤治療を受けた患者や放射線治療を受けた患者にも多く見られますし,手術後,体力低下にともなって見られる場合もあります。
がんが進行することによる悪疫質になると多くの患者が全身倦怠感や脱力感を訴えます。この倦怠感に対する特効薬はありませんが,不眠などによる疲労の蓄積であれば,その不眠の原因を取り除く対処法が必要となり,睡眠導入剤などによる方法もあります。
この倦怠感には心理的側面も関係しており,改善が難しい面もありますが,家族やケアスタッフとのコミュニケーションにより,気分転換をはかるなどの工夫も必要です。
また,副腎質ステロイド剤の投与で症状が緩和される場合もあります。 |
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■ むくみ(浮腫)
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むくみ(浮腫)には全身に見られる場合と手や足の局所に見られる場合があります。むくみ(浮腫)とは,血液中の体液が血管外に漏れ出るなどして,血管外皮下組織に溜まった状態をいいます。
局所性では,がんの手術の後にリンパの機能が低下し,リンパ浮腫になることもありますが,全身性のむくみの原因として,血液のタンパク質の減少による浸透圧低下があげられます。
がんが進行すると低栄養状態となり,肝臓や腎臓の機能も低下するため,むくみが起きやすくなります。 浮腫の治療には利尿剤やアルブミンなどのタンパク製剤が使用されますが,がんの進行と共に効果が薄れてきます。
むくみのために,皮膚が炎症を起こす場合もあり,皮膚を清潔に保ち,傷つけないよう,注意が必要です。 また,摩擦などにより,褥瘡(じょくそう)(床ずれ)を起こさないように気をつける必要があります。
むくみ(浮腫)のある部分を枕などで持ち上げ,体液の移動を促したり,体の向きを変えたり,床ずれ防止用のマットを利用する方法もあります。
リンパ浮腫の場合,基本的には体液の循環をよくすることが大切なので,体を冷やさず,マッサージや適度な運動,弾性ストッキングが効果的です。 マッサージなどは自己流で行わず,医師や看護師に相談し,専門家の指導を受けましょう。
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■ 腹水 |
腹水の多くは胃がんなどの消化器系のがんで起こりますが,腹水の原因もむくみの原因と共通する部分があります。
腹水の原因で一番多いケースが血液の中のタンパク質(アルブミン)が少なくなり,血管の外に出た水分を血管に戻す力が足りなくなる場合です。
アルブミンを作っているのは肝臓なので,肝臓の力が弱くなると,腹水が増えやすくなります。
また,がんが腹膜に転移して,がん性腹膜炎になると見られます。横隔膜の下にあるリンパ管ががんによって,圧迫されたりすると,漏れだしたリンパ液が腹腔内に貯まります。
腹腔内に異常がなくとも,肝臓付近の血管や心臓,リンパ管などに異常があっても腹水が見られます。
腹水の治療は,原因や症状によりさまざまですが,利尿剤を使用して,尿を多く排出させ,血液の中の水分を尿に出すことで血液のアルブミン濃度を上げ,腹水の水分がより多く血管の中に戻ってくるようにします。
利尿剤を使っても腹水が増えてくる場合には,腹腔穿刺(ふくくうせんし)を行い,腹壁に針を刺し,直接腹水を抜く治療を行います。
米国での大規模比較試験では「利尿剤よりも腹腔穿刺の方が,安全かつ確実に腹水による症状を楽にする。」という結果が報告されています。
しかし,一度に全部抜くのは,体液バランスが崩れ,血圧が低下したり,体力の消耗,免疫細胞の消失などがあり,危険なため抜き取るのは一部でなければなりません。
また,抜く腹水の量1リットルあたり6〜10グラムのアルブミンを点滴で補充することが有効といわれています。
腹腔内(腹膜の袋の中)に抗がん剤を入れる治療が腹水を減らすのに効果があることがあります。
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■ 呼吸不全 |
呼吸困難は「息苦しさを感じる」という症状を指し,肺がん患者に多く見られます。
肺がんのなかで,肺の入り口付近にできる肺門型肺がんは進行すると,気管支の内腔を狭めるため,呼吸困難が起こります。
空気の流入が悪くなると、空気が浄化できず,感染症が起こりやすくなります。その結果,閉塞性肺炎が起こり,せき,発熱,胸痛などが見られます。
また,胸水,腹水,肝臓の腫れ,うっ血性心不全などがあると,肺が圧迫されるために呼吸困難が起こります。
呼吸困難は,貧血,発熱,感染症などでも起こりますが,心理的な不安感で起こることもあります。
息苦しさは,不安を強く感じる人が多く,心理的不安を取り除くことがとても大切です。
対症療法としてモルヒネや,抗不安薬,副腎皮質ステロイド薬,気管支拡張薬を併用します。末期になると気道内の分泌が増加し,呼吸が苦しくなった場合,麻酔薬の一種,臭化水素酸スコポラミンを皮下注射します。
モルヒネは量が多すぎると呼吸を弱める副作用があり,息苦しさには少量で効くことが多く,少量から始めて少しずつ増量すれば,問題はありません。
自力で呼吸できない場合,器官を切開し,人工呼吸器を装着することもあります。また,鼻の中に鼻腔カテーテルを入れ,酸素療法が行われることもあります。この方法は呼吸困難による酸素不足を解消するだけでなく,患者を安心させる効果もあり,苦痛の緩和に役立ちます。
呼吸困難は姿勢によってかなり楽になる場合もあります。ベットの角度を調節するなどして楽な呼吸の姿勢を見つけましょう。
座った姿勢の方が少ない力でより多くの酸素を取り込めるため,楽な場合があり,呼吸はあおむけに寝た姿勢より,上半身を起こしてベッドにすわったほうが気道が広くなるので,楽になります。
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■ せき・喀痰困難 |
せき・喀痰困難は呼吸困難と同様,肺がんの患者に多く見られますが,肺がん以外でも,がんの進行と共に咽頭,喉頭,気道,胸膜,心膜,横隔膜などが刺激を受けると,せきが出るようになります。
せきは気道内の異物や痰を出すための反射運動であり,無理に止めてしまうことにも問題がありますが,はげしいせきは,体力を消耗するだけでなく,不眠,食欲不振,吐きけ・嘔吐,筋肉痛,肋骨骨折などの原因にもなるので,症状を軽くすることが必要です。
せきに対する対症療法として,鎮咳剤,去痰剤,気管支拡張剤の他,局所麻酔薬のリドカインや副腎皮質ホルモン剤などが投与されます。
また,たんがからんで呼吸困難になる場合もあり,体力が落ち,衰弱していると自力で排出することが困難になります。
このような場合は,吸引器の管を気道に挿入し、たんを吸引するという方法があります。 また,軽く背中や胸をたたいたり,姿勢を変えるなどして,たんの排泄がスムースにできるようケアすることも
大切です。
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■ 発熱 |
がん患者は,抗がん剤の副作用や免疫力低下による感染症など,さまざまな原因で熱が出ることがあります。
抗がん剤の投与による発熱は2〜3日で下がりますので,あまり心配はありませんが,抗がん剤の副作用として白血球が減少し,そのために免疫力が低下して感染症にかかりやすくなり,発熱する場合もあります。
既に述べたようにがんによる発熱は感染症だけではありませんが,発熱は免疫細胞を活性化する体の防御反応の1つであり,むやみに下げるのはよくありません。
しかし,発熱のために体力を消耗したり,食欲が低下する場合には解熱剤を処方してもらい,熱を下げる必要があります。
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■ 吐き気・嘔吐 |
吐き気や嘔吐は抗がん剤治療や放射線治療,モルヒネなどの副作用として見られる他に,がんそのものが胃,腸,肝臓,脳などへ拡大することで,嘔吐中枢を刺激することでも見られます。
また,がんの再発・転移による消化管の圧迫・狭窄(きょうさく),手術後の腸管癒着などの原因でも起こります。
その他,不快なにおい・味覚などが原因となり,これらの刺激が嘔吐中枢を刺激して起こる場合もあり,さらに緊張や不安感などの心理的要因も関わってきます。
がん病巣の広がりに対してはその治療が第一ですが,現在は優れた制吐剤が開発されているのでそれらを処方して,経過を観察します。
嘔吐した場合は必ず,口をすすぎ,口腔内の清潔を保つことが大切です。
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■ 消化管閉塞 |
がんの進行に伴い,消化管閉塞を起こす患者は少なくありません。消化器のがんが進行して大きくなったり,近くのがんが増大して消化器を圧迫したり,ほかの臓器のがんの転移や浸潤により,内腔が狭くなると,通過障害が起こります。
また,腹水がたまることでも消化管が圧迫されるために,通過障害が起こります。これによる腹痛や膨満感,吐き気などの症状は患者のQOLを低下させ,また食事の摂取をも困難にさせます。
患者の体力があり,原因になっている部分を手術で切除すれば症状が改善するとはっきり予測でき,本人が希望する場合には,手術をして改善することもあります。しかし,それだけの体力が患者に残っていない場合もあります。
そのような場合,こうした症状に対しては,消化管内の水や電解質の吸収を促進する酢酸オクトレオチドの投与が有効であり,その有効性を筑波大学大学院の谷水正人氏が第46回日本癌治療学会総会でも報告しています。
オクトレオチドとは脳の視床下部から分泌されるソマトスタチンというホルモンの合成類似物です。ソマトスタチンは作用時間が短く,薬としては使いにくいので,作用する持続時間を長くしたのがオクトレオチドです。
オクトレオチドは消化管の壁から電解質や水分が分泌されるのを抑制する作用や吸収を促進させる作用があるため,膨満感が解消されると共に,吐き気・嘔吐も改善されます。 |