脳腫瘍・がん治療

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脳腫瘍

 脳は主に2種類の細胞から成り立っていますが,その一つは「ニューロン(脳神経細胞)」であり,もう一つは「グリア細胞(神経膠細胞)(しんけいこうさいぼう)」です。

 この中で,思考や記憶をつかさどる細胞がニューロンですが,この細胞は分裂・増殖をしないため,がん化することはありません。これに対しグリア細胞はニューロンに栄養を供給したり,脳の形態を維持したりする機能がありますが,分裂,増殖能力を持っています。

 したがって,悪性の脳腫瘍とはこのグリア細胞ががん化し,周囲の脳組織を破壊しながら,脳内を浸潤していく状態を言います。

 また,頭蓋内には脳そのものだけでなく,多くの組織があり,腫瘍はこれらの多くの組織から発生し,悪性度もそれぞれ異なりますが,頭蓋内に発症した腫瘍のすべてを脳腫瘍と総称しています。
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 脳の構造とおもな脳腫瘍

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脳腫瘍の原因
 脳腫瘍を引き起こす原因は現在のところ不明です。近年,携帯電話などの電磁波を長時間浴びると起こるという仮説が提唱されましたが,因果関係は立証されていません。

 アメリカがん学会の資料では統計的に以下のような人が脳腫瘍に罹患しやすいと報告されています。

 1)小児,高齢者  2)男性(髄膜種は40才~50才の女性に多い)  3)エックス線被爆者
 4)免疫機能の低下している者 3)遺伝的病気を持つ者(神経繊維種症,結節硬化症など)
 5)有機溶媒,殺虫剤などの化学物質に長時間暴露した者 


脳腫瘍
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脳腫瘍の種類
 脳腫瘍は頭蓋内の組織から発生した原発性脳腫瘍と,他の臓器のがんが脳に転移または浸潤した転移性脳腫瘍とに大きく分けられます。

 原発性脳腫瘍が,頭蓋内の病巣から他の臓器に転移することはまれですが,他の臓器で生じたがんが脳に転移する転移性脳腫瘍は比較的多く見られます。

 特に肺がん,乳がんなどは脳への転移が多く見られます。また,転移性脳腫瘍は転移が複数個所認められることがあります。

          脳腫瘍の種類と悪性度
(国立がんセンターがん情報サービスより)
脳腫瘍の種類  頻度 悪性度
1.神経膠腫(グリオーマ) 28% 悪性・良性
 1-1 星細胞腫(せいさいぼうしゅ) (28%) 比較的良性
 1-2 悪性星細胞腫 (18%) 悪性
 1-3 膠芽腫(こうがしゅ) (32%) 悪性
 1-4 髄芽腫(ずいがしゅ) (4%) 悪性
 1-5 その他 上衣腫(じょういしゅ)など (18%)
2.髄膜腫 26% 良性・一部悪性
3.下垂体腺腫 17% 良性
4.神経鞘腫(しんけいしょうしゅ) 11% 良性
5.先天性腫瘍(頭蓋咽頭腫など)  5% 比較的良性
6.その他 胚細胞由来の腫瘍など 13%

神経膠腫(グリオーマ)
 悪性脳腫瘍の大半を占める神経膠腫(グリオーマ)は脳のグリア細胞ががん化したものであり,がん細胞の分化度によって,悪性度の低いものから高いものまで何段階かに分けられます。
 

 
この種のがん細胞は,がん細胞が周囲の細胞にしみ込むように拡がっていくため,正常な組織との境界があいまいで,腫瘍部分だけを切除することは難しいという問題があります。

星細胞腫(せいさいぼうしゅ)
 
神経膠腫のなかで,最も発生頻度の高いものは星細胞腫です。星細胞は神経細胞(ニューロン)に栄養を補給している星のような形をした細胞で,星細胞腫とはこの細胞ががん化したものです。

 
成人では大脳半球に多く,小児では小脳に発生しやすいという特徴があります。 成人の星細胞腫には,比較的良性の星細胞腫と悪性の悪性星細胞腫とがあります。星細胞腫は比較的良性の腫瘍ですが,悪性化することもあり注意が必要です。

 
膠芽腫(こうがしゅ)
 膠芽腫は星細胞腫の一腫で,
45~65歳の成人男性に多く発生し,全ての脳腫瘍の中で悪性度が最も高い腫瘍です。あらゆる治療を行っても平均生存率は1年半程度で,5年生存率は10%以下です。

 
浸潤が著しく,正常細胞との境界が不鮮明であり,急速に拡がります。症状が悪化すると,運動機能や言語機能,意識障害などが起こります。


随芽腫(ずいがしゅ)
 
主に5~9才のこどもの小脳にに多く発生する悪性腫瘍です。脳圧が高まる頭蓋内圧亢進症状で発症します。

 早期から頭痛,吐き気,嘔吐などが見られ,やがて歩行障害など平衡感覚の障害が加わります。
 摘出手術や放射線療法および化学療法で治療します。悪性の腫瘍ですが,五年生存率は六〇%前後です。

 

上衣腫(じょういしゅ)
 
大脳の中心部にはいくつかの脳室があり,ここには脳と脊髄を包む液体が貯め込まれていますが,この脳室の壁をおおう上衣細胞からできる腫瘍を上衣腫と言い,多くは脳室に関連して発生します。

 悪性度はそれほど高くありませんが,大脳の奥に発生するため,完全に摘出することは困難なことが多く,その場合,手術後に放射線治療や抗がん剤治療を行います。


髄膜腫(ずいまくしゅ)
 脳膜から発生し,多くは良性の腫瘍です。40~50才の成人に多く,女性は男性の2倍の発生率です。

 この腫瘍は大きくなるまで時間がかかり,2~3cmになりまで自覚症状があらわれないことが多く,頭蓋内圧が上がり,脳圧亢進症によって発症するケースが多いという特徴があります。

 また,脳半球の上部に発生すると,けいれんを起こして発症することもあり,前頭葉に発生すると認知症状が,運動中枢では発生した脳の部位と左右反対側の手足に運動障害がおこります。 視神経が走る部位に発生した場合,視神経を圧迫して視野障害や視力障害を引き起こします。
 
 治療は摘出手術により完全に取り除くことができれば治癒します。 特に頭蓋底部の脳膜からも,しばしば発生し,中央部にできたものは脳幹に接しており,しかも多くの血管や神経の間から摘出するので,この部位の手術は脳経外科手術のなかで最も困難なものの一つです。
  
 髄膜腫のなかでも悪性のものも2~10%程度あり,悪性のものは輪郭が不鮮明ため,外科手術だけでの治療は困難で,放射線治療も併用されます。


下垂体腺腫(かすいたいせんしゆ)
 脳の下垂体から発生する多くは良性の腫瘍で,30~40歳代成人に最も多く見られます。ホルモンを異常に分泌する腫瘍と,そうでないものとがあり,乳汁分泌ホルモンが異常に分泌されると乳汁がでることもあります。

 また,成長ホルモンが分泌されると,あごがはってきたり,手足の先が大きくなる末端肥大症が見られます。

 ホルモンを分泌しない腫瘍は,視神経を圧迫したり,下垂体の機能を低下させて発症します。視野の外半分が見えにくい(両耳側半盲)などの症状が出ます。

 治療法は外科手術が中心であり,上唇の内側を切開し,鼻腔からの顕微鏡手術(経蝶形骨洞手術)が行われますが,最近では鼻孔からの内視鏡手術も行われるようになりました。


神経鞘腫(しんけいしょうしゅ)
 
 脳神経に発生する神経鞘腫は良性ですが,内耳神経にできると聴力低下,耳鳴りなどが発症します。早期に発見されれば,顕微鏡手術で聴力を保つことも可能です。 腫瘍が増大すると,平衡機能障害(めまい,ふらつき,歩行障害)や顔面神経麻痺などが現れます。

 三叉神経の神経鞘腫では顔半分の感覚異常や神経痛のような痛みが初発と症状なります。

 


頭蓋咽頭腫(ずがいいんとうしゅ)
 先天性良性脳腫瘍の代表的なものの一つで,胎生期の頭蓋咽頭管が消えずに残ったものから発生する先天性腫瘍と考えられています。全年齢層にわたってみられますが,5才~10才の小児に多いという特徴があります。
 
 腫瘍は通常トルコ鞍と呼ばれる頭蓋底部の上方に発生するため,視神経の圧迫による視力障害が起こり,視床下部,下垂体系のホルモン分泌の中枢が障害されます。特に小児では成長ホルモン分泌障害にともなう低身長で発見されることもあります。 

 この腫瘍は視床下部周囲の重要な血管,下垂体内に癒着しながら成長するため,手術が難しく,全摘出が困難なことが多く,放射線治療の併用が有効とされています。


胚細胞腫(はいさいぼうしゅ)
 脳の中心部にある松果体および脳下垂体の近くに生じる腫瘍で,未成熟の生殖細胞(胚細胞)が腫瘍細胞になります。主に9~20才の男子に多く発症します。

 松果体に腫瘍が発生すると,脳圧が高まることによる頭痛,吐き気,嘔吐などの症状のほか,上方が見えにくくなるという特徴的な症状も現われます。
 
 症状がさらに進むと,歩くときにふらつく,耳が聞こえにくい(聴力障害),尿の量が増える,視野が狭くなるなどの症状が見られます。

 胚細胞腫瘍は放射線,化学療法ともに感受性が高い腫瘍ですが,化学療法だけで腫瘍が消失しても再発するので,放射線治療を併用します。


脳腫瘍の症状

 悪性の脳腫瘍は初期からでも一部の患者は頭痛,嘔吐などの症状を示します。腫瘍の発生場所によって,聴力障害,視野狭窄,顔面麻痺,言語障害,歩行障害,けいれんなど様々な症状が現れます。

 脳腫瘍の症状には,腫瘍自体が神経を圧迫したり破壊したりする局所症状と,頭蓋(とうがい)内で腫瘍が大きくなることにより圧力が上昇することにより起こる頭蓋内圧亢進(とうがいないあつこうしん)症状があります
。 

 また,腫瘍が分泌するホルモンによって起こる内分泌症状があり,手足の先が大きくなったり,乳汁の分泌,肥満などが見られることがあります。


頭蓋内圧充進症状
  腫瘍の増大により,頭蓋内圧が上昇すると,初期には頭痛,吐きけ,嘔吐がおこります。いずれも早朝や起床時に症状が強くでます。
  
 この時期を過ぎると内圧がさらに高くなり,硬膜のひだのすきまから,脳が押し出されます。これは脳ヘルニアと呼ばれ,けいれんや意識障害が起こる危険な状態であり,緊急な処置が必要となります。


局所症状
 脳は場所によって機能が異なるため,腫瘍がどこにできるかによって症状もそれぞれ異なります。 たとえば,大脳の右脳の前頭葉の運動野という手足などを動かす部位に腫瘍ができると左半身の麻痺が起こります。

 また,右利きの人の左脳の前頭葉に腫瘍ができると,無気力,痴呆様行動などの性格変化や尿失禁,右半身の麻痺,言語障害などが見られます。

 後頭葉に腫瘍ができた場合,視野が狭くなる(視野狭窄)や視野の一部がかける(視野欠損)などが見られ,幻覚を生じる場合もあります。

 腫瘍の発生部位によっては左右がわからなくなったり,簡単な計算ができなくなったり,読み書きができなくなったりすることもあります。
 
 大脳以外の場合,これらとは異なった症状が現れます。小脳や脳幹にに腫瘍ができると,顔面麻痺や運動失調,めまい,難聴などが見られます。

 脳の中心にある脳下垂体や松果体,視床下部付近に腫瘍ができると眼を動かす動眼神経の障害で物が二重に見えるなどの異常をおこしたりします。


内分泌症状(ホルモンの異常)

 ホルモンを分泌する機能をもつ細胞から,腫瘍が発生することがありますが,腫瘍の増殖にともない,ホルモンの過剰分泌による症状が現われます。
 
 たとえば,乳汁分泌ホルモン(プロラクチン)をつくり出す腫瘍(プロラクチノーマ)ができると,出産もしていないのに乳汁の分泌があったりし,不妊の原因にもなります。

 成長ホルモンをつくる下垂体腺腫ができると,まゆやあごが張ってきたり,手足のさきが大きくなったりします(末端肥大症)。
 
 また,副腎皮質刺激ホルモンをつくる腫瘍(クッシング病)によっては肥満,にきび,皮膚の妊娠線,高血圧,糖尿病などが現われます。
 
 小児期に下垂体ホルモンの分泌を調節している視床下部に腫瘍が発生すると,ホルモンの分泌が障害されて,発育障害や低身長症が発生します。

 


脳腫瘍の検査・診断
  局所症状が現れた場合,脳のどこの部分に障害があるかある程度診断も可能ですが,脳腫瘍の症状が認められた場合,基本的な検査ではCT,MRIなどによる脳の内部の画像により診断されます。

 腫瘍の位置や大きさや形などの特徴がわかり,現在は解像度が向上し,初期の5mm程度の腫瘍もとらえることができます。

 また,時間をあけて撮影することにより,腫瘍の成長の速さや形状の変化,まわりの組織への影響などを把握することもできます。
 
 画像診断では一般に悪性の腫瘍は形が不定形で輪郭がはっきりしないものが多く,逆に良性のものは輪郭がはっきりしているものが多いと言えます。

 他には血管内に造影剤を注入し,血管の状態を撮影し,腫瘍への栄養血管や腫瘍自体の血管の性状などの詳細な情報を取得できるMRAという撮影機器も使用されます。

  脳腫瘍の治療
 脳腫瘍の治療法は,外科手術,放射線治療,抗がん剤治療の3大治療が中心ですが,近年は免疫療法を実施している医療機関もあります。
 
 現在,悪性の脳腫瘍に対しては外科手術が中心となり,放射線治療や抗がん剤はそれと併用されます。
良性の脳腫瘍に対しては,手術のみで治療されます。

 外科療法
 脳腫瘍の治療では,手術によって病巣をすべて摘出する方法がもっとも有効とされ,実際にもっともよく行われる治療法でもあります。
 
 悪性の脳腫瘍(神経膠腫)では腫瘍を完全にとり除くことのできた場合,生存率が完全に摘出できなかった患者の生存率を上回ることが明らかになっています。
 
 悪性の脳腫瘍は,周囲の正常な脳組織にしみ込むように広がっている(浸潤)ことが多く,手術も困難で,執刀医は高度な技術が求められるだけでなく,どこまで切除すべきか難しい判断を迫られます。

 確かに病巣をすべてとり除けば,治癒の可能性は高くなりますが,脳の機能をそこなってしまえば,言語機能や,運動機能など多くの機能に障害がでるだけでなく,さらには精神の異常をきたすおそれがあります。

 現在,脳手術の技術も進歩し,手術用顕微鏡下で,執刀医が術部の位置確認を3次元で把握できるナビゲーションシステムを導入している病院も増えています。

 さらに,近年,精密なメスの動きを可能にした,ロボットハンドすなわちニューロナビゲーターにより,より正確で,安全に手術ができるようになりました。


 放射線治療
 放射線治療は術後,取りきれなかった腫瘍への治療だけでなく,脳腫瘍のなかでも特に転移性脳腫瘍に単独でも効果を上げています。その理由は転移性脳腫瘍は原発性脳腫瘍より,腫瘍の境界線がはっきりしており,放射線を正確に照射できるからです。

 特にガンマナイフは,頭部を開頭せずにすみ,手術では困難な深部の治療ができるというメリットがあるだけでなく,入院期間も2泊3日程度と手術よりもはるかに短い日数ですみます。

 さらに,近年ガンマナイフを進化させたと言えるサイバーナイフが登場しています。この治療機器は超小型直線粒子加速器(リニアック)をロボットアームに取り付け,様々な角度から腫瘍に放射線を照射できるだけでなく,照射位置のズレをコンピュータが補正します。

 この装置では病巣位置の確認のため,メッシュ状のマスクをつけますが,ガンマナイフと異なり,頭部を金属で固定する必要がなく,ガンマナイフより分割照射ができるので,3cm以上の腫瘍にも対応できます。

 また,近年,サイクロトロン(円形加速器)やシンクロトロン(同期加速器)などの加速器を使って,陽子や炭素の原子核を加速し,がんに集中して照射する治療法が確立されました。 粒子のなかでも陽子を使う粒子線治療を陽子線治療と言い,炭素の原子核を使う治療を重粒子線治療と言います。

 この粒子線治療の特徴は粒子が運動を停止する直前に最大のエネルギーを放出するという性質(ブラッグピーク)を利用し,がん病巣内部で粒子が最大のエネルギーを放出するようコントロールされているということで,悪性の脳腫瘍などもっとも治療困難とされているがん治療に臨床試験として用いられています。

 
抗がん剤治療 

 脳腫瘍に対しては化学療法,すなわち抗がん剤の投与も行われます。一般的に手術で取り残した腫瘍や再発した腫瘍に使用されます。

 しかし,抗がん剤は吐き気,白血球減少などの副作用の問題があるだけでなく,脳血管の独特な構造により,脳腫瘍にはあまり適しているとは言えません。

 それは脳の血管には糖など,ごく一部の物質しか通さない血液悩関門があり,これは抗がん剤にもあてはまることで,そのため,脳腫瘍に使用される抗がん剤は限られてしまいます。

 おもに使用されるのは,分子量が小さく脳血液関門を通り抜けられる二トロソウレア系のニムスチン,ラニムスチンなどです。最近ではテモゾロミドというアルキル化剤が開発され,放射線と併用することで放射線単独を上回る効果が確認されています。
 
 投与の方法も,静脈注射の他に,脳内に直接抗がん剤を注入する方法も考えられていますが,この方法は投与後にけいれんや出血などの副作用を引き起こす危険性があります。


 免疫細胞療法 
 
 がんに有効なリンパ球を増殖させる免疫細胞療法は近年,注目されている治療法ですが,脳腫瘍は手術や,ガンマナイフ,サイバーナイフなどの放射線治療でも良好な成績を収めており,免疫細胞療法はこれらを補助し,効果を高める治療法として利用したほうがよいでしょう。

 脳腫瘍に対しては樹状細胞ワクチン療法が効果があることが,国内外のがん治療研究で報告されています。

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